バイパス手術?
●人工心肺を使わないバイパス手術
世界では1990年代初頭頃から。日本でも1990年代の半ば頃より「低侵襲心臓手術」という概念が心臓外科医の間に浸透し始めました。そのひとつとして、「人工心肺を使用せず、心臓が動いたままで冠動脈バイパス手術(以下CABG)を行う」という「心拍動下バイパス手術=off pump CABG」(オフポンプと呼んでます)が登場しました。もともと「低侵襲」手術は、これより少し以前から既に他の外科領域において発展を遂げてきました。その代表的なものが、胆石症に対する「腹腔鏡下胆嚢摘出術」です。それまでは胆石の手術といえば、お腹を15〜20cmぐらい切り開いて行っていましたが、腹腔鏡下手術では2cm程度の穴を3ヶ所ほど開け、そこから細い筒を入れてビデオカメラを見ながら胆嚢を切除するのです。こうして、小さな傷で手術後の痛みも少なく回復も早い(退院も早い)という、一石三鳥ぐらいのメリットが得られるわけです。日本では1990年頃から始まり、当初は技術的な難しさが指摘され、逆に危険な手技であるなどとの批判もありましたが、現在ではさまざまな問題がほぼクリアされ、胆石症に対する標準術式としての地位を確立しています。
●MIDCAB(ミッドキャブ)とoff-pump(オフポンプ)
○MIDCAB(ミッドキャブ)
胸骨を切らないで左の胸に5cm程度の切開を加え、そこから心臓の一部を見ながら、心臓を動かしたままでバイパス手術を行うという手術方法。
当時、人工心肺法に関しては、概ね安全になったとはいえ、術後の脳障害や臓器不全などとの関連が指摘されており、これを使わないのは「低侵襲」として理にかなっていると考えられました。こうして、当初は社会経済的な動機で行われた術式が、次第に「低侵襲」を追求する姿勢に移行し、次にMIDCAB(ミッドキャブ)という術式が登場します。それは、胸骨を切らないで左の胸に5cm程度の切開を加え、そこから心臓の一部を視野におき、動いたままでバイパスを行うという手技です。この術式は高度な技術を要しますが、予定通り完遂できれば、患者さんに対する侵襲はきわめて軽度で済みます。しかしこの術式は、技術的な問題と、それに加えてバイパスできる血管が1本に限られる(2本以上も可能ですが、さらに難しくなるのです)という点が足枷となり、あまり普及はしませんでした。結局、胸骨を縦に切るという従来のアプローチは変わらず、人工心肺は使用しないで、多枝バイパス、つまり何本もバイパスを行うという方法が定着しました。ただしミッドキャブはなくなったわけではなく、今でも名人がいて、職人芸的に行われています。
●オフポンプCABGの今
オフポンプCABGは、心臓の裏面の冠動脈につなげる場合や、冠動脈の性状や走行が悪い場合は難易度が高くなります。ただ、今ではさまざまなアイデア器具の開発と手技の工夫により、技術的な困難さはかなり解決されてきています。日本での普及率は諸外国に比べ高率で、ちなみに日本胸部外科学会の統計によると、1999年度では日本全国で行われた全CABG17735例中、オフポンプ CABGは2775例(15.6%)だったのが、2001年度には全CABG20095例中、オフポンプCABGは6950例(34.6%)と数を増やしています。現在(2005年)はもっと増えているでしょう。